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税務の勘所Vital Point of Tax

『相続税の更正の請求の特則』 自社株評価の争いで異例の判決

2018/11/06

 「相続税の更正の請求の特則」をめぐる税金裁判で、東京地裁が異例の判決を下した(平成30年1月24日)。争いとなったのは、主に遺産分割にともなう更正の請求に関するもので、相続財産である製造業グループの中会社の非上場株式の評価が、当初申告と異なる評価額により行うことが認められるかどうかが焦点となった。事態を複雑にしたのは、問題となった非上場株式の評価について、以前に税務訴訟が提起されており、納税者に軍配が上がっているためだ。

 以前の裁判では、主たる争点の1つにおいてグループ中心の大会社の保有資産の金額に占める株式の金額の割合が25%以上だからといって同社を株式保有特定会社と認定するのは時代にそぐわず不合理だとして、更正処分で採用された純資産価額を反映させた評価額ではなく、類似業種比準方式による評価額が認められている。これにともない、同じく相続財産であった同社の子会社である不動産管理会社(中会社)の株式については、親会社の株式を70%以上保有していたため、純資産価額方式で正しく計算し直した評価額が認定されている(東京高裁平成25年2月28日・確定)。

 これにより、国税当局は後に、株式保有特定会社と認定する株式の保有割合を25%以上から50%以上に変更する財産評価基本通達の改正を行った(「財産評価基本通達における大会社の株式保有割合による株式保有特定会社の判定基準の改正について」国税庁平成25年5月)。

相続税の更正の請求の特則とは

 更正の請求といえば、大まかに2つのタイプがある。それは、①申告書に記載した課税標準等・税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった場合や、その計算に誤りがあって納付すべき税額が過大であった場合などで、元の申告書の提出期限から5年以内に限って認められている通常のタイプ(国税通則法23条)。また、②課税標準等・税額の計算の基礎になった事実関係に関する裁判などにより、当初の事実関係と異なることが確定した場合、確定した日の翌日から起算して2か月以内に限って認められている後発的事由のタイプ(国税通則法23条)。国税庁通達の変更により認められる更正の請求はこのタイプだ。

 これに対して相続税の更正の請求の特則は、相続特有の事由により認められている。最も身近なケースとしては、相続税の申告期限までに遺産分割が成立していない財産がある場合に法定相続分でとりあえず申告し、遺産分割が調ったときに実際の相続財産の取得分で更正の請求等を認めるというものだ。

 相続税法第55条《未分割遺産に対する課税》では、申告期限までに遺産分割協議が調わない場合、各相続人が法定相続分で相続財産を取得したものとみなして課税価格や税額を計算することになっている。その後、分割されていなかった財産の分割協議が成立し、相続する割合が変わって当初申告時の課税価格と異なるような場合には、このことを知った日の翌日から4か月以内に限り、その分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、その相続人は減額のための更正の請求をすることができるとされている。これが相続税法32条(相続税法の更正の請求の特則)の規定だ。

今回の裁判の事案

 ところが、今回の東京地裁が判決を下した事案では、法定相続分で当初申告していた相続税について、以前の税務訴訟で認められた大会社の類似業種比準方式による評価額を前提に正しく計算し直された中会社の株式の評価額を用いて、遺産分割協議が調ったことで更正の請求をしたところ、当局が当初申告の株評価で請求すべきだとして増額更正処分をしたことで争いになった。実は相続人にとって、国税庁が株式保有特定会社と認定する「保有株式の割合」に関する財産評価基本通達の変更を行ったという後発的な事由により原則的な更正の請求をするにしても、法定申告期限等から5年を経過している場合には法令上、減額できなかったためだ。

 当局の考えは、「問題の非上場株式の会社が株式保有特定会社に該当しないとの判断は、本件申告および前件更正処分における本件各株式の評価の誤りをいうにすぎず、国税通則法23条1項1号の事由には該当し得るが、相続税法55条本文に基づき法定相続分に従って申告をした後に遺産分割を行ったことにより、当初の法定相続分による課税価格と異なる課税価格になったという相続税特有の事情とは何ら関係なく、同法32条1号に掲げる事由に当たらないことは明らか」というものだった。

裁判所の判断

 これに対し東京地裁は、更正の請求の特則について「相続税法32条1号に基づく更正の請求においては、原則として、遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由、すなわち申告または従前の更正処分における個々の財産の価額の評価に誤りがあったこと等を主張することはできない」と解されると説示。このことから「更正の請求上、課税価格の算定の基礎となる財産の価額はまずは申告における価額となるべき」とした。

 ただし、ここで東京地裁は次のような問題点を指摘した。①この事案のように、当初申告の更正処分をめぐり税務訴訟が提起され、「その判決が課税価格および納付すべき税額につき当該更正処分における金額と異なる金額を認定し、更正処分の一部を取り消すこととなった場合には、後の相続税法32条1号に基づく更正の請求(中略)の際の計算において、従前の更正処分における個々の財産の価額のうち判決によって変更を受けたものをそのまま計算の基礎にすべきではない」。②しかし「その価額を申告における価額と置き換えることもその価額が従前の更正処分によって変更を受けている以上、判決がその変更前の価額を相当とする旨を判示しているのでない限り、相当ではない」。③「課税庁としては、取消判決の説示に従い、改めて個々の財産の価額を変更する更正処分をしておくことが考えられるが、判決が確定した時点において更正処分の法定の制限期間(法定申告期限等から5年)が経過しているときには、そのような処理をすることができない」。

 このため東京地裁は、「争点となった個々の財産の評価方法や価額に係る認定・判断ならびにこれらを基礎として算定される課税価格および相続税額に係る認定・判断に、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定および法律判断として行政事件訴訟法33条1項所定の拘束力が生じているということができる上、後の相続税法32条1号に基づく更正の請求(中略)に係る事件についても同一の被相続人から相続により取得した財産に係る相続税の課税価格および相続税額に関する事件であることに変わりがない以上、 行政事件訴訟法33条1項にいう「その事件」として、上記の拘束力が及ぶものと解するのが相当」と判断している。

 この事案では、過去の税務訴訟で認定された非上場株式の評価額も税務当局を拘束すると考え、納税者側の株評価の変更を含めた遺産分割による更正の請求を認めており、これまでの常識だった税務当局の「更正の請求の特則」に関する解釈を超える判断を行ったといえる。なお、当局は控訴している。

行政事件訴訟法 第33条・・・処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。

 

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